多田統一の”研究所めぐり”

 その1  国立極地研究所

 私がここを訪ねたのは、立川への移転計画が持ち上がっていた2001年(平成13年)の5月であった。都営三田線板橋区役所前」駅で下車、徒歩で約10分王子新道沿いに研究所の建物が建っていた。この場所には、元陸軍東京第二造兵廠があった。住居表示は、東京都板橋区加賀1-9-10。加賀は、前田家下屋敷のあった所で、水車動力を利用した近代工業発祥の地である。正門を入ると、南極観測船「ふじ」のスクリューの一部がモニュメントとして置かれているのが目についた。専門員の方に、ホールを案内してもらったが、ここには、昭和基地の模型、第一次越冬隊が使用した犬橇の実物、着用の装備、KD60型雪上車、ペンギンの剝製や隕石などが展示されていた。家族で見学している姿も見られたが、学校からの要望があれば施設見学を受け入れているとのことであった。この研究所は、1973年(昭和48年)9月大学共同利用機関として設置された。極地研究、極地観測を通して社会に果たしてきた役割は大きく、総合研究大学院大学の基盤機関として博士後期課程の院生への教育指導が行なわれていた。ネットで確認すると、新キャンパス(東京都立川市緑町10-3)に移転したのは2009年(平成21年)5月、2010年7月には南極・北極科学館が開館し、2019年9月時点で30万人の来館者を記録している。現在、コロナで休館している。超高層物理学研究、気水圏研究、地学研究、生物学研究、極地設営工学研究などのハイレベルの研究活動が行なわれている。一方、見学等を通した環境分野での学校教育との連携も図られている。産業考古学の立場からは、観測機器の発達や極地での住居や衣服の工夫が興味深い。(参考文献:多田統一「研究所めぐり 国立極地研究所」文芸広場 Vol.49 No.7、2001年7月)